ネクタイの歴史、その意味とは?
国内に限らず全世界を見渡してみても多くのスーツ姿の男性の首元にはネクタイが巻かれているはずです。
スーツスタイルであればネクタイを巻く行為はあたりまえの行為であると考えている男性がほとんどだと思いますが、時々ネクタイに対して疑問を抱いたりしませんか?
「ネクタイって何の意味があるの?」
「ネクタイはいつ誕生したの?その歴史が知りたい!」
実際に現代のネクタイは首に巻かれているだけで人を守ったり、利便性を高めたりするような物理的な役割があるとは思えませんから、疑問を抱いて当然と言えます。
この様な疑問を解決するには、歴史を勉強するのが一番の近道です。まずはネクタイのルーツを探る為に2000年前のローマ時代まで遡ってみましょう。
ネクタイに似た「男性の首に巻く布」自体はローマ時代から存在していた
二世紀のローマ時代は東ヨーロッパ、辺境の地において蛮族を追い払う任務に就いていたローマ帝国における兵士達は、寒さ対策として首元に「フォーカル」と呼ばれる布を巻いていたのです。
この布には寒さ対策以外に日本でいう「お守り」の様な意味合いもあったと言われています。
兵士達が任務に出向く時に、妻や家族が安全と無事を祈って布を贈る習わしがあったそうです。
兵士達は首元に巻いた布に触れる事で、大切な家族の事を思い出していたのかもしれません。
しかし、兵士達の苦闘も虚しく、四世紀に始まった蛮族の大移動がきっかけとなりローマ帝国は滅亡してしまったのです。
ただ、首元に巻かれる布の習慣は、バルカン半島を占領した蛮族に受け継がれていきました。
ルイ14世の御用達であった「クラバット」の意味
時代は17世紀頃、フランスのブルボン王朝の絶頂期に栄華を極め「太陽王」と呼ばれていたルイ14世は、お洒落に対して非常に熱心であったと言われています。
バルカン半島に伝わっていた首元に巻く布を再びヨーロッパに広めた立役者はルイ14世だと伝えられています。
きっかけは、ある日のこと、ルイ14世が宮殿内を歩いていると、宮殿の警護にあたっていた傭兵の姿が目に入ってきたのです。
傭兵が身に着けていたのは「布を首に巻くだけ」というシンプルなオシャレでした。
普段から華やかな襟巻きや首飾りを見慣れている王の目からしたら、かえって新鮮に映ったのです。
傭兵の装いを非常に気に入った王は、職人に命じて同じような布を作らせ、首に巻いて宮廷に出るようになると、フランスの貴族や国を訪れた外国の諸侯の中でブームとなり、ヨーロッパ中に急速に広まっていったのです。
首に巻く布は、身に着けていた傭兵がバルカン半島のクロアチア出身であったことから、フランス語でクロアチア人を意味する「クラパット」と名付けられたのです。このクラパットが、現代のネクタイにおける直接の起源であると言われています。
英国で誕生した現代のネクタイ
ルイ14世の時代に誕生した「クラパット」は「布を首に巻く」という点においては現代のネクタイと共通しておりますが、その形はネクタイというよりもスカーフやマフラーに近いものでした。
現代人が身に着けているネクタイを生み出したのは、クラパットの誕生から約200年後のビクトリア朝時代の英国紳士達なのです。
この頃は既にスーツが紳士の装いとして定着しはじめていました。その際に「クラパット」はスーツには欠かすことのできない小物の1つとされ、「ネクタイ」と呼ばれるようになっていったのです。
堅実を旨とし簡素を良しとする英国紳士たちは、従来のクラパットを改良し、デザインをシンプルにしていきます。
まず、クラパットの結び目だけを独立させた「蝶ネクタイ(ボウタイ)」が登場しました。
1870年頃には、ロンドンの郊外にあるアスコット競馬場で、太くて短い「アスコットタイ」が流行しました。
そして19世紀の終わりごろには、遂に現在の主流となる細長いネクタイが誕生したのです。
当時は「フォア・イン・ハンド」と呼ばれていたこのネクタイは、一説によると19世紀のイギリス文学を代表する作家であるオスカー・ワイルドが考案したとも言われています。
この頃は、スーツが工業化により量産されるようになり、大衆化が進んでいた頃でした。
これらの新しいネクタイは時代の流れに上手に乗りながらイギリス国内のみならず、世界中へと広まっていったのでした。
特に剣形の細長いネクタイにおいては、シンプルなデザインと結びやすさから最もよく使われるようになっていきました。
更に、似たり寄ったりのスーツスタイルの中で少しでも他者と差別化することができるように、色・柄・素材に様々な工夫が成されるようになっていったのです。
日本におけるネクタイの歴史
我が国、日本にネクタイが初めてもたらされるようになったのは幕末のことでした。
1851年にジョン万次郎がアメリカ合衆国から帰国する際に持ち帰ってきたのが始まりであると言われています。
その後、明治維新に入り1884年に帽子の商人であった小山梅吉により国内初、そして国内産の蝶ネクタイが作られたのでした。
現代で主流となっている細長いネクタイが取り入れられ始めたのは大正時代に入ってからでした。
「モボ・モガ」と呼ばれていた西洋の流行に非常に敏感な若者たちが着け始め、洋服の普及と合わせて徐々に大衆に浸透していったのです。
すると第二次世界大戦後、日本が高度経済成長期に入ると、サラリーマンの必需品アイテムとしてネクタイの需要が急激に増しました。
さらに、様々なファッションの流行により柄や素材の種類も次第に増えていき、70年代のアイビールック、プレッピースタイル、80年代の日本人デザイナーのブランドの流行、バブル期の海外ラグジュアリーブランドの日本進出、こういった時代の流行や社会現象を通して、様々なデザインや素材のネクタイが国内に豊富に流通するようになっていきました。
近年においてはビジネススタイルのカジュアル化に伴い、「ニットタイ」などが夏場のクールビズを中心に普及してきており、ネクタイのバリエーションはさらに広がってきています。
さらにECサイトなどインターネットショッピングも普及したことで、一部の大都市でしか購入できなかった、海外高級ブランドのネクタイも手に入れやすくなりました。
現在では戦前に比べ自分好みのネクタイを場所、時間問わず自由に購入できる環境になったと言えるでしょう。
まとめ
現代人(特に男性)が身に着けている洋服はミリタリーファッションだけに限らず、根本的には戦争がきっかけに誕生した物が多いと言われています。
ビジネススーツの必須アイテムであるネクタイにおいても、根源を辿っていくと2000年前の兵士が防寒のために首に巻いていた布であったのです。
その首に巻いていた布がルイ14世やジョン万次郎といった歴史上の偉人も含め、多くの人々が身に着けながら改善が繰り返され、スーツスタイルの一部となっていったのです。
そして、現代のネクタイの役割はスーツ姿で働く男性にとって単なるスーツの首元につけるだけの意味ではなく、色合い的に地味になりがちなスーツスタイルにおける数少ない主張アイテムの1つであり、ビジネスマンの外見的な魅力をより一層高めてくれるアイテムでもあるのです。